ガンパレード・マーチ SS
流れ星をください

「え? プレゼント?」
 そう。森さん、今度の20日、誕生日って聞いたから。何か欲しいものある?
「べ、別に……。もう子供じゃないですし」
 子供じゃなくても、プレゼントはもらってもいいと思うけど。
「そ、そんな事言われても急には……ぁ……フフッ」
 どうしたの?
「ん、ああ、ごめんなさい。ちょっと子供のころ思い出しちゃった」
 子供のころ?
「ええ。昔ね、流れ星が欲しかったんだ」
 ……流れ星?
「だ、だから、子供のころの話だってば。星がさ、落ちてきて。ならどっかに落ちてるんじゃないかって、思ってたの」
 そうか……ありがとう。
「ううん。またね」

「あ、またやっちゃった……」
 私は、士魂号の整備をする手を止めて、一息ついた。額の汗をぬぐう。1月だと言うのに、ハンガーの中は夏のような蒸し暑さだった。
「わざわざ話しに来てくれたのにな……」
 昔からそうだ。ひとつの事に集中すると、他のことに目が行かなくなる。悪い癖だ。今も、ずいぶんいい加減に受け答えしてしまった気がする。
「少し、休もっと……」
 気分転換を兼ねて外に出る。と、急激に気温が下がる。熊本の冬はそれほど厳しいわけじゃないけど、さすがにこのハンガーと比べると、かなりの温度差がある。
「食堂で紅茶でも飲もう、うん」
 ふと空を見上げる。空は今日も雲に覆われていた。太陽は霞んで、ぼんやりと頼りない光を放っている。
「流れ星、か……」
 もちろん今は昼間だから、見えないのだけど。
「そういえば、さっきの……誰だったんだろ?」
 話した相手のことさえ覚えてないとは情けない。今度からせめて相手の顔ぐらいは見るようにしよう。
 でも。その日はなんだか一日中気分がよかった。

 数日後。
「森さん、いるかしら?」
「はい。原先輩、なんですか?」
 ハンガー2階左側の入り口に、原先輩が立っていた。なんか……目つきがちょっと怖い。
「今ちょっといいかしら?」
「は、はい……」
「じゃぁ、ちょっと来なさい」
 そういうなり、原先輩は階段を降りていく。私は仕方なくその後を追っていった。
 少し早足で歩いていく先輩。無言のままだ。こういうときは、よく仕事のことなりプライベートの事なり話してくれる人なのに。
「……あの……何か…………」
 裏庭を抜け、プレハブ校舎前まで来たときだった。
「あれ? 滝川君?」
 滝川君がこちらに向かって走ってきた。いや、ちょっと違う。食堂の方を目指してるみたいだ。そして、彼が食堂の入り口のドアに近づいたとき、原先輩が叫んだ。
「滝川君! 開けちゃダメ!!」
「えぇっ! 原さんに森!?」
 だが、一瞬早く、彼は入り口の引き戸を開けて。

 パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!パンッ!

 次の瞬間、入り口の前には、クラッカーと花まみれになった滝川君がいた。

「な、な、な、な……」
 声が出ない。
「何やってるのよ! 滝川!」
 私の代わりに言葉を発したのは、隣にいた原先輩だった。
「い、いや、その……ちょっとトイレ行っててさ」
「んなもの、もっと前に行っておきなさい!! まったく、せっかく森さんの誕生会なのに、台無しじゃない」
「え? 誕生会? 私の?」
「あ、ああ。今日、森、誕生日なんだろ? それで、みんなで誕生会開こう、ってさ……」
 滝川君が説明してくれる。ただ、その頭はクラッカーのテープがからまって、さらに色とりどりの花までかぶってて。
「あはっ、あはっ、あははははははははははははっ!」
「そんなに笑うことないだろ……」
「だってぇ、滝川君、その頭っ! あはははっ、あぁ、おっかしい!」
 あーぁ、もう!お腹痛い! やだ、もう!
「さ、立ち話もなんだ。中入ってくれよ、お姫様」
「えっとねー、みっちゃんがケーキつくってくれたのよ」
 見ると、中には5121小隊のみんながいた。
「……うん。ありがとう!」
 ちょっとだけ出た涙は、さっき大笑いしたせいだけじゃないと思う。きっと。

 それからは、大さわぎになった。どうやら、新年会も兼ねていたみたい。
 中村君が作ってくれたケーキにろうそくを挿して、火を吹き消した。ひとつだけ消えなかったのがちょっと悔しかったけど、ケーキは甘くておいしかった。
 王様ゲームで勝った速水君が、舞さんに猫(うちのブータだ)を無理やり抱かせていた。真っ赤になった舞さんがかわいかった。
 遠坂君が手品を披露してくれた。すごいと思ったら、同調っていう技能を使ったらしい。ずるい気もするけど、面白かった。
 石津さんの占いは、雰囲気たっぷりで、ちょっと怖かったけど楽しかった。今年は少しいい年になるらしい。ほんとにそうなるといいな。
 岩田君が踊りだした時だけは、みんな手元のフォークとかスプーンを投げつけていた。もっとも、彼は器用に全部避けていたけど。
 田代さんが、ガンパレを歌いだして、みんなで大合唱会になった。私も大声で歌った。
 誰かがお酒を持ってきていたらしく、それを飲んだ壬生屋さんがいきなり脱ぎだそうとして大変だった。刀を持っていなかったのは不幸中の幸いだと思う。

「……結局、私の誕生日をダシにして楽しみたかっただけなんですね」
「でも、森さんも楽しんでるでしょ?」
「速水君……」
「それとも、もっと構ってほしかった?」
「べ、別に、ウチは……。速水君こそ、私なんかに構ってていいの?」
「だって、今日の主賓だしね」
「安心しろ厚志。精華の相手なら他にもいる」
「……ま、舞?」
 速水君の真後ろに仁王立ちした舞さんがいた。そのまま、速水君の頭を、グーでぐりぐりする。
「貴様それでもカダヤか!」
「うわっ、痛いよ、舞!」
「……相変わらずお熱いですねぇ」
「な、ち、違うぞ精華! ただこやつが……」
「あーら、善行の奥様、痴話げんかですわよ」
「人の目も気にせずになんて、最近の若いものは……ねぇ、原の奥様」
 ヒューヒューというはやし立てる声があちこちから飛びかう。
「ば、馬鹿者、違う、断じて違うっ!!」
 真っ赤になった舞さんは、そう叫ぶと食堂を飛び出していった。
「あら、ちょっとやりすぎたかしら……」
「なぁに、何かあってもはやし立てた皆さんも同罪ですよ」
 全員が引きつる。確かにそれはちょっと怖い。
「さて、もう時間も遅いですし、お開きにしませんか。皆さんも十分楽しんだでしょう?」
 そう言うと善行司令は私の方を向いてにこっと笑った。そういえば、この人の笑顔なんて始めて見る気がする。
「はい。ほんと、みんな……今日は、ありがとうございました!」
 立ち上がって深々と頭を下げる。自然とそんな事をしていた。精一杯の感謝を。みんなに。みんなに出会えたことに。

「うわー、さすがに冷えるなぁ……」
 食堂を出ると、外はすっかり暗くなっていた。夜風が冷たい。雲はほとんど無く、星々が天を埋め尽くしていた。一部分──黒い月があるところを除いては。
「そんなに寒いなら、半ズボン、やめればいいじゃない」
「うるさいな。姉さんには関係ないだろ」
「はいはい」
 しばらく空を眺める。
「どうしたの、姉さん?」
「……いつか、あの黒い月が、なくなるのかな?」
「……なくなるさ。いや、なくしてみせる。僕たちで」
「……そうね……あっ!」
 黒い月から飛び出したのは、一筋の流れ星。
「見た!? 大介?」
「ああ、見たよ。願い事は間に合わなかったけどね」
「あ、また!」
 空を横切る、幾筋もの星の流れ。星のかけら。思わず、両手を伸ばしていた。
「……何やってるの、姉さん?」
「なんかさ……こうしていると、届く気がして」
「……莫迦だな。帰るぞ。風邪ひくぞ」
「あ、……うん」
 先を行く大介を追おうとした、その時。
(お誕生日、おめでとう、森精華さん)
「えっ?」
 今、何か、聞こえたような……。
「大介! 今、何か聞こえなかった?」
「姉さんのでかい声しか聞こえないよ」
「でかい声ってのはなにさー!」
「実際でかいだろ。彼氏の前でそんな大声出すと嫌われるぞ!」
「こら! 待ちなさい!」
 走りながらもう一度空を見る。流れ星はもうない。でも、なんだか、星たちが、私の心を優しく照らし出してくれているような気がした。

── Happy Birthday, Dear Seika! ──

あとがき


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