灰羽連盟 SS
笑顔をつたえて

 カチャ。
 部屋のドアが外側から少しだけ開かれた。ドアを開けた人物は、ドアの隙間から部屋の中を覗き込んだ。部屋の中は暗く、厚いカーテンの隙間から昇ったばかりの陽の光がわずかに注いでいる。
「……よし」
 部屋の主がまだベッドの中で眠っていることを確認すると、その人物はドアを自分が通れるだけ開けた。立て付けの悪いドアがギィッと音を立てる。
「!」
 だが、部屋の主はその音に気づく事なく安らかな寝息を立てていた。
「……ホッ」
 侵入者は足音を立てないように慎重に部屋の中に入っていく。そして、何かを探すかのように部屋の中をキョロキョロと見回した。
「……あった」
 目的の物は机の上に無造作に置かれていた。
 メガネ。
 侵入者はそれを手にとると、再び足音を立てないようにゆっくりと部屋を出て行った。

「キャアーッ!!」
 ドスンドスンドスン!!
 派手な音と叫び声を上げてクウが階段から落っこちたのは、その30秒後の事だった。

「なぁにぃ、今の音ぉ……」
 叫び声でヒカリは目を覚ました。ドスンドスンとかいう音も聞こえた。誰かが階段から落ちたりでもしたのだろうか。
 眠い目をこすりながら、ヒカリは起き上がり、ベッドからの中から抜け出した。そして、机の上に手を伸ばす……。
「……あれ?」
 メガネが無かった。たしか、昨日、寝る前にここに置いたはずなのに……。
「わぁーっ! クウっ! ちょっと! どうしたの!! しっかりして!!」
 部屋の外からカナの大声が聞こえてきた。クウがどうとか言っているようだ。部屋の中にいても仕方がないので、ヒカリは様子を見にドアを開けて廊下に出た。
 ヒカリの部屋は棟の端にあり、廊下を出てすぐ左手が階段だった。
「おはよう……カナ、私のメガネ知らない?」
 知っているはずは無いと思いつつ訊いてみる。カナは階段下にいて、そこにクウもいるようだった。
「あぁっ、ヒカリっ!! クウがっ! クウが、メガネで頭打ってて!!」
「……はぁ?」
 カナのセリフの意味が分からなかったので、ヒカリは目を細めて、階段の下を見下ろした。
 クウがヒカリのメガネを掛けたまま、階段の下で倒れていた。

「もう、大丈夫だって〜」
 ゲストルームのベッドにクウは腰掛けていた。隣ではヒカリが氷の入った袋でクウの頭の打った所を冷やしている。そしてカナはクウの前で中腰になって──ちょうど、クウと同じ目の高さだ──心配そうな顔をしていた。レキとネムは朝早くから出かけていたので、ここにいるのは3人だけだった。
「いや、頭打ってるし。今はなんともなくてもあとで大変なことになるかもしれないし……」
「ん〜、大丈夫じゃないかな。コブになっちゃってるけど、逆に内出血とかは無いと思うよ」
「そ、そうなの? ヒカリ」
「って、パン屋のご主人が言ってた」
「あぁっ、またそんな信用ならないことをっ」
「とりあえず、これで少し冷やしておけば大丈夫よ」
 ヒカリはクウの頭に氷の入った袋を当てたまま言った。
「大丈夫? 吐き気とかしない?」
 カナがあいかわらず心配そうな様子で尋ねた。
「うん。大丈夫だいじょうぶ。クウは元気なのがとりえだもん」
 そう言って勢いよく立ち上がろうとしたところをヒカリに抑えられる。
「だーめ。今日はできるだけ安静にしてなさい。一応けが人なんだから」
「……はーい」
 しぶしぶといった感じでクウは答えた。
「それにしても、なんでヒカリのメガネなんかかけようと思ったのさ?」
「ん〜とね……あれかけたら世界がどんな風に見えるか知りたかったの。ヒカリにはどんな風に見えてるのかなぁ、って」
「「…………はぁ」」
 ヒカリとカナはそろってため息をついた。
「あのね。これは私みたいに目が悪い人のためのものなの。クウは目がいいんだから、こんなのかけなくても大丈夫なのよ」
「それは分かってるけど……でも、かけてみたかったんだもん」
「なら、言ってくれれば貸してあげたのに」
「へへへへ」
 笑って誤魔化そうとするクウ。
「まったく……このあいだはレキのスクーター勝手に乗って、電柱にぶつけるし……。直すの大変だったんだからな」
「ゴメンゴメン〜」
「反省の色が無いなぁ」
 そう言うと、カナはようやく立ち上がった。
「さて、買い物に行ってくるけど、ヒカリはどうする?」
「ん〜、一応ここにいる。あ、そうだ、ついでにコショウ無くなってたから買ってきて」
「はいはい。じゃ、行ってくるよ。クウはおとなしくしてるんだぞ」
 クウにそう釘を刺すと、カナはゲストルームを出て行った。バタン!と音を立てて扉が閉まる。
 カナが出て行くと、途端にゲストルームは静かになった。
「いちいち言わなくてもいいのに……」
 小さくため息をついて、クウがつぶやいた。
「フフフ。クウの事が心配なんだよ」
「それは分かるけど……」
「カナにとっては、クウは初めての妹だからね。どうしても心配なんじゃない?」
「妹?」
「みたいなもの、ってこと。クウはカナが生まれたあと、初めてやってきた子だもん」
「……そういうものなの?」
「それに、クウの繭はカナが最初に見つけたの。だから、人一倍そういう気持ちが強いんじゃないかな」
「そうだったの?」
「そうだよ。あの時も大慌てだったんだから。カナは」
 その時のことを思い出して、ヒカリはクスリと笑った。
「今日のクウみたいにね。階段から落っこちてすごい音、してたんだから」
「なんだぁ。じゃ、クウのこと叱れないじゃん」
「あとね。レキのスクーターも乗りたがってたし」
「ほんとう?」
「うん。ちゃんとレキに『乗せて』って頼んでたけどね。でも、レキが、うん、って言わなくて。もうちょっとで喧嘩になるところだったのよ」
「ふぅん……見てみたかったなぁ」
「だから、自分と同じような事やってる子を見ると、心配なんじゃないのかな」
「クウは子供じゃないもん」
「あははは。そうね。ごめんなさい」
 と、クウはふいに黙り込んだ。なにやら真剣な顔つきをしている。
「……どうしたの?」
「ねぇ、ヒカリはカナより先に生まれたんだよね?」
「うん。カナが生まれるちょうど1年くらい前かな」
「じゃあさ。カナが階段落ちたときとかもあんなふうにカナのこと心配してたの?」
 クウの口調は普通だが、目が笑っていた。
「べ、別に……わたしは、そんな心配性じゃないもん」
「またまたぁ。そんなに照れなくても」
「知りませんっ」
 そういってそっぽを向いたヒカリの顔はほんの少し赤かった。この分だと、随分カナのことを心配していたらしい。
「あ〜ぁ、クウも妹、欲しいなぁ」
 そう言って、クウは体を倒し、ベッドの上に寝ころがった。
「クウ?」
「それでね。その子にいろんな事教えてあげたいな。一緒にごはん食べたり、遊んだり、ときどき心配とかもして」
「そうだね。今度新しい子が来たら、今度はクウがその子のお手本にならなくちゃね。だから、あんまりいたずらばかりしちゃダメよ」
「ちぇ〜っ。わかったよ〜」
 ヒカリもベッドに寝ころんで、二人で笑った。
「その子とも、こんな風に笑えたらいいね」

- fin -

あとがき


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