灰羽連盟 SS
バースデイ(体験版)

「ハッピバースデイトゥーユー、ハッピィバースデイトゥーユー。
 ハッピィバースデイ、ディア、ラッカー!
 ハッピィバースデイトゥーユー!!」
 歌が終わると同時に、パン!パパン! と、クラッカーが弾けた。
「おめでとう、ラッカ」
「おめでとう」
「おめでとう」
「えへへへ……ありがとう、みんな」
「はい、ラッカ、誕生日ケーキだよ」
「うわぁ、ありがとう」
 ヒカリがどこからか大きなケーキを持ってきた。
「うちの店長特製のケーキよ。味は保証するんだから」
 そう言って、ヒカリは持っていたケーキを、ゆっくりと全員が囲んでいるテーブルの上に置いた。
「……なに、これ?」
 ケーキはごく普通の、すこし小さめだけどとても美味しそうなケーキ。その上には、火のついたろうそくが一本だけ刺さっていた。
「なにって、誕生日ケーキですからね。やっぱり誕生日ケーキにろうそくは必須でしょ?」
「それはそうだけど……なんで一本しかないの?」
「だって、ラッカ、今日で満一歳じゃない」
「そ、それはそうだけど〜」
 こんな大きな一歳児がいていいんだろうか。
「ラッカ。一本だからといって甘く見てるとえらい目にあうよ」
 肩をたたきながらそう言ったのはカナ。
「え、えらい目って?」
「灰羽はね。誕生日のときにケーキのろうそくの火を一息で消さなきゃいけない、ってしきたりがあるんだ。もし、一息で消せないと……」
「け、消せないと?」
 カナは、一呼吸タメを置いたあと、こう叫んだ。
「留年!」
「りゅ、りゅうねん〜〜〜?」
 もともとくせっ毛のラッカの髪が、逆立つかのように光輪に引き寄せられる。
「そんなわけないでしょ」
「もう、ネムってば、冷静にツッコまないでよ」
「まったく……ラッカが来た一年前と、やってること変わらないじゃない」
 そのときとほとんど同じ反応を返してしまった私はなんなんでしょうか……、と疑問を感じざるを得ないラッカだった。
「ま、冗談はおいといて。ほら、ラッカ、火を消して」
「うん」
 すぅ、と息を吸い込んで、思いっきりろうそくに向けて吹き付ける。一本しか点いていないろうそくの火はあっさりと消えた。
 もう一度、パチパチパチと鳴る全員の拍手と、おめでとう、の声。
「ほんと、ありがとう、みんな」
「でも早いわよねぇ。ラッカが来て、もう一年かぁ」
 ネムが温かな紅茶の入ったカップを手にしながら、つぶやいた。
「ほんとほんと。なんかあっという間だった気がするな。ラッカはどう?」
 カナも同意して、ラッカに同じ事を訊いた。
「私は……結構長かった気がするよ。いろいろあったし……」
 そこで、少し会話が途切れる。
「そうね……クウもレキも、巣立っていっちゃったものね」
 話を繋いだのは、ネムだった。
「ラッカ、まだ二人のこと……」
「あ、ううん! 大丈夫。あのときみたいにはならないから」
 慌てて首を振るラッカ。
 もう、あのときのように、悲しみに捕われたりはしないから。
「でも、確かにいろいろあったわよね」
 ちょっと沈みかけた雰囲気が、ヒカリの一言で再び浮かび始めた。
「たとえば?」
「やっぱり、一番はラッカが生まれたことでしょ」
「たしかに! それが一番の出来事だ」
「あの時はみんな大変だったもんね〜」
「そ、そうなの?」
「そうよ。久しぶりの新生子だったし。繭は見つけたときにはもう孵化直前だったしね」
「ふぅん……」
 さすがに自分では自分の入っていた繭のことはよく分からない。
「あのときのレキの慌てぶりったら、なかったわよ。ほんと、ラッカにも見せたかったわ」
 ネムが苦笑まじりにそう言った。
「そ、そうなの?」
「レキってね、灰羽歴長いくせに、繭を見つけたの、ラッカのが初めてだったのよ。だから、すごく喜んで、驚いてたみたい」
 その事は、あの日見たレキの日記にも書いてあった。そして、繭の中で聞いたおぼろげな声を思いだす。

「たいへんたいへん!」
「どうしたの、レキ? 引っ越し作業してたんじゃなかったの?」
 ものすごい形相でゲストルームに飛び込んできたレキに、ネムはそう言った。
「だから、たいへんなんだってば!」
「落ち着きなさいよ。子供たちもいるんだから……」
「え、あ……」
 ゲストルーム──兼、レキの部屋だった場所──で遊んでいたダイ、ショータ、ハナの仲良し三人組が、きょとんとした顔でレキのほうを見ている。「優しいけど、怒るとちょっと怖いお姉ちゃん」なレキのこんな慌てた姿を見るのは多分始めてなのだろう。
「こほん。えーと……大事な話があるから、あんたたちは外で遊んでなさい」
 好奇心旺盛な子供たちがそんな言葉で引き下がるはずも無く。
「だいじなはなし、ってなにー?」
「たいへんなんでしょ? なになに?」
「たいへんたいへんー!!」
「レキ……それ、かえって逆効果よ」
 まったく、子供に甘いんだから……、とかぶつぶつ言いながら、ネムはレキのそばに寄り、ごく自然に耳をレキの口元に近づけた。
 その所作の意味を理解したレキは、ネムにだけ聞こえるような小さな声で言った。
「東棟に、繭があった。かなり大きいの」
 本当? とネムが目で訴える。うなずくレキ。
「わかった。じゃ、子供たちは私がなんとかしておくから、レキはみんなを集めてよ」
「あ、あぁ、すまない」
 そして、ネムは手をたたいて
「はい、みんな、そろそろ勉強の時間じゃないの? 早く行かないと先生に怒られちゃうわよ」
「あ、いっけねー!」「いそげいそげーっ!」「あーん、まってよーっ」
 子供たちはレキのそばを離れて、大急ぎで「教室」に向かって走り出した。そのあとをややゆっくりとしたペースでネムが追っていく。ちなみに、「先生」とは寮母のお婆さんのことである。レキと違って、「怒ると相当に怖い」ので、子供たちに言うことを聞かせるときによく引き合いに出される──。
 閑話休題。
 子供たちがゲストルームから出たのを見届けた後、レキもゲストルームを飛び出し、繭のある東棟に向けて走り出した。建物を抜け、中庭に出たところで、誰かとぶつかりそうになる。
「うわっ、なんだ、クウか……」
「なんだじゃないよー。勢いよく走ってきたのはそっちじゃない」
「ごめん……クウ、どこか行くの?」
「うん。街までちょっと買い物」
「ちょうど良かった」
 レキはクウの小さな肩をパンパンと叩いた。
「なにー?」
「街に行ったら、ヒカリとカナを呼んできて」
「? なにかあったの?」
「……新しい繭を見つけたんだ。しかも、結構大きい。だから」
「繭? 繭って、あたしたたちが生まれてきたってやつ?」
「ああ。だから」
「うわー! すごいっ、すごい! ねえ、見せて見せて! 新しい仲間が生まれてくるんだよね!?」
 クウは興奮して、レキの話をまったく聞いていない。
「あとで案内するから……まず、ヒカリとカナを……」
「え〜、なんでー? 見せてよー」
「じゃ、代わりに部屋の掃除、する?」
「掃除?」
「今まで使われてない部屋だったからね。埃とか溜まってるし、他にもいろいろと……」
「あ、カナとヒカリ、呼んでくるねーっ!」
 レキが掃除、と言った途端、クウはオールドホームの入り口に向けて走り出していた。
「まったく……いつまでたっても子供なんだから」
 レキがあきれたように溜息をついた。もっとも、目は笑っている。
「さて、まずは、と……ぁ、そうだ」
 レキは何か思い出したかのように、繭のある部屋ではなく、その近くの倉庫に向かった。倉庫といっても、もちろんただの空き部屋ではあるが。
「これと、これと……なんでこんな物があるんだろう。ま、ちょうどいいけど」
 レキが持ち出したのは、工事現場に置いてあるような、赤い円錐形をしたコーンと、「KEEP OUT」と書かれた蛍光テープ。コーンを繭の部屋の入り口近くに配置して、その間にテープを張る。
「ガキんちょ対策はこれでよし、と……」
 満足げにつぶやくと、レキは改めて部屋の中の繭を見た。
「大きい繭だよね、ホントに……」
 背丈は天井に届きそうなほど。幅も、部屋いっぱいにぎりぎり入っているといった感じだ。
 レキはその繭に近づくと、繭の表面をを軽く叩いた。ボン、という、中に何も詰まっていないような、やや気の抜けた音がする。そのことを確かめてから、レキは繭に向けて話し始めた。
「聞こえますか。私の名前はレキ。繭を見つけたのは初めてだから、嬉しくって、ドキドキしています……。
 灰羽は、名前や過去を失くしてしまうから、最初は寂しかったり、不安になったりすると思うけど、私がついも一緒にいるから。……何があってもあなたを守るから。
 だから。私の最後の希望を……あなたに託すことを、許して」
 その時のレキの顔を見た者は誰もいなかったけど。その顔はとても優しかった。


「ラッカ、どうしたの、ぼうっとして」
「え、え、あ、ごめん。ちょっと昔のこと、思い出しちゃってた」
「昔って?」
「え〜と、その……生まれるときとか、その辺の。そういえば、ヒカリやカナ、クウの繭は誰が見つけたの?」
「ヒカリとカナは私」
 そう答えたのはネム。
「で、クウの繭はあたし」
 そう答えたのはカナだった。
「あれ、じゃぁヒカリは……」
「そうなのよ。カナも見つけたのに、私だけまだなんだもん。今度こそ、って思ってたらラッカに先を越されちゃうし」
 そう言ってヒカリは頬をぷぅと膨らませた。こういう子供っぽいしぐさが妙に似合う。
「あは、あははははは……」
「仕方ないじゃない。いつ、どこに繭が生まれるかなんて、誰にもわからないんだから」
「それはそうだけどぉ」
「ねえ、クウの時はどんな感じだったの?」
「ん? クウが生まれたとき?」
 今度はラッカが少し話題をそらしてみた。
「クウの繭はさっき言った通り、あたしが見つけたんだけど」
「ちっちゃい繭だったわよねー。また年少組かな、って思ったもん、最初は」
「繭の大きさと中に入ってる人の年齢って、関係あるの?」
「あんまり無いみたいだけどね。でも、やっぱり年少組に入っちゃう子の繭は、小さめかな」
「ラッカの繭は相当大きかったけど、ラッカ自身はそんなに大きいわけじゃないしね」
「ふぅん……」
 だとすると、あの双子は年少組になるのかな? なにしろ、一つの部屋に繭二つだから、すごく窮屈な状態になっている。
「クウといえばね、ラッカが生まれたとき、ちょっと大変だったのよね」
「え? 私が生まれたとき?」
「そう。ちょっと駄々こねちゃってね……」

- to be continued -

 この続きは、灰羽連盟only即売会「トーガの市」にて頒布予定の同人誌 「ハネノジ」にて掲載予定です。


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