アカイイト SS
YさんとUさんの報われない日

Written by 89式

 なぜこんな事になってしまったのか?。千羽烏月は自答した。自分はただキッチンに行き、料理をしようとしただけだ―――。
 まず買ってきた料理の本を見ながら野菜を切りはじめた。
(その様子を見ていた千羽党の下っ端Aの証言曰く、『散弾銃を千丁同時にぶっ放したような状態か、もしくは指向性散弾地雷(クレイモア)を一万発炸裂させたような感じだった。』)
 そして切った野菜を油でいためようとした。野菜炒めを作ろうとしたのだ。
(その様子を見ていた千羽党の下っ端Bの証言曰く、『大型爆弾が爆裂したような音がし、天にも届かんような火柱があがった』)
 ふと自分の想い人は和食が好きだったことを思い出し、予定を変更して魚を捌こうとした。
(その様子を見ていた千羽党の下っ端Cの証言曰く、『地獄の底から捻り出したような凄まじい悲鳴があがり、血しぶきが撒き散らされもうころしてくれええええというような声が聞こえた』)
 捌き終わった―――と本人が思った―――魚を脇に寄せ、味噌汁を作ろうと鍋に火をかけた。
(その様子を見ていた千羽党の下っ端Dの証言曰く、『活火山の噴火口のような熱気があたりにもうもうと充満した。灼熱の硫黄の雨があたり一面に降り注いだ』)
 鍋に水と味噌を入れるのを忘れていたのに気づきそれらを加熱していた鍋にぶちまけた。
(その様子を見ていた千羽党の下っ端Eの証言曰く、『刺激臭が発生し、ゴキブリとネズミが後を争って避難した。第六の天使のラッパも聞こえたような気がした』)
 最初の野菜炒めが火にかけっ放しであったことを思い出し、烏月は火を止めようとした。
 それから一分後、千羽党本家から半径10キロメートル以内に住んでいる全住民の証言、『物凄い閃光がしたと思うと、核を思わす巨大なキノコ雲が立ち上った。』なおその時上空を飛行していたZASAの人工衛星はキノコ雲の撮影に成功、日本政府およびアメリカ政府に通報し自衛隊と米軍の警戒レベルが一気に跳ね上がった。これに呼応し中国軍とロシア軍の警戒レベルも上昇。一触即発の空気に世界は包まれた。これほどの世界規模での警戒態勢の上昇は1962年のキューバ危機以来だという。
 巨大クレーターと化した千羽党本家。そのど真ん中、爆心地に烏月は佇んでいた。そのさまはネオ東京を壊滅させた超能力者か、気弱な少年が乗るすぐ暴走する巨大ロボットのようだった。

[YさんとUさんの報われない日]

「そんなわけでお願いします。柚明さん」
 桂の学校の近くの商店街にある喫茶店で柚明と落ち合った烏月は事情を話した(具体的に言うなら上記の内容)。
 そして料理がうまくなりたいため何とか教えてください、と土下座したのだった。
「えっと・・・・・・」
 にわかには信じがたい話だった。料理をしていたら町を壊滅してしまいおまけに第三次世界大戦の危機を招いてしまった、だなんていきなり言われて信じられる話などではない。というか冗談にしか聞こえない。しかし目の前の土下座している少女は冗談という言葉の正反対を戦車で疾走し、ついでに戦車砲で冗談という言葉を粉砕するような少女だ。
―――どうしましょう。家はアパートだから壊されたら迷惑がかかってしまう・・・。
「あの・・・・葛ちゃんには相談しましたか?」
「――――葛様は、その、被害総額を見てひっくり返ってしまわれました・・・・。」
 あの方が冷静さを失うところを初めて見ました、と烏月は付け加えた。
「・・・・・・・・」
 ひっくり返りたいのは柚明のほうだった。しかし断るわけにもいかなかった。なんと言っても彼女は柚明の恩人でもあり、また自身の命に代えても守りたい人羽藤桂の想い人なのだから。
 柚明はため息を一つつき、勤めて明るい声で
「いいですよ。では早速お料理の特訓ですね。ちょうど桂ちゃんはお出かけ中ですし。下手したら剣の修行なみに厳しい修行になるかもしれませんよ」
と言った。
 烏月は地獄で八百万の神を引き連れた仏様とマリア様とアッラー様に出会ったような顔をして、ありがとうございますと言った。
「それにしても何で今烏月さんはお料理を学びたいと思ったのですか?」
 柚明の問いにほんのり烏月は頬を紅く染め、伏し目がちにぽそぽそと言った。
「その・・・・・・もうすぐホワイトデーですから・・・・・」
 それだけで合点がいった。バレンタインデーの時桂は手作りのチョコレート菓子を皆にふるまったのだ。(作り方を教えたのはもちろん柚明)
「桂さんはあの時、特別製だよとおっしゃって私にお菓子を渡してくれました。それが・・その・・うれしくて・・」
 柚明はテレながら頬を緩める烏月のことをかわいい、と思った。と同時にこれは役目重大だぞ、とも思った。
「わかりました。ではまいりましょうか。」
「ええ」
 烏月は立ち上がり、会計を済ませるとそのまままっすぐ桂と柚明の住むアパートには―――いかず反対方向に向かった。
「あれ?。烏月さん?どちらに・・・?」
「私の今の料理の腕ではご迷惑をおかけしそうなので場所を移して修行したほうがいいかと思いまして。幸い葛さまが良い場所があると紹介していただきました。」
 柚明は内心ホッとした。アパートを吹き飛ばされたりする心配はこれで無くなったと。

 柚明は自問した。ここはいったいどこなのだろうか、と。目の前にはコンクリートで固めた空間が広がっている。建築家がなんんんにもおかないぞ、ぜってー無機質極まりない部屋を作るんだ、と意地になって設計すればこんな空間ができあがるのだろうか。それほど無機質極まりない何にも無い空間である。唯一そんな中で浮いているのが空間の片隅に置かれた移動式のシステムキッチンだった。
「あの・・・・・烏月さん?」
「なんでしょうか?」
「あの・・・・ここはいったいどこなのでしょうか・・・・?HELLSINGって文字が書いてある真っ黒い大きな禍々しい形をした飛行機に押し込められてからの記憶が飛んでいるのですが・・・・。」
「某国の地下核関連施設です。諸事情により某国の具体的な名前は伏せさせて頂きます。」
「・・・・・はぁ・・・・・・・・・・って核?!!」
「大丈夫です。結局一回も使われなかったそうですから」
「はぁ・・・・・」
 口から出る言葉ははたして了解を意味する言葉か、それともただのため息か、柚明自身もわからなかった。
 私、本当に料理を教えるために来たのかな、本当は知らない内に核を巡る国際的な陰謀に巻き込まれたんじゃないかしら・・・・。
「柚明さん?」
 破壊工作、じゃなく料理の準備をしようとしている烏月が話しかけた。柚明はなんとか現実と向き合う決心をした。桂ちゃん、おねえちゃんがんばるからね・・・・・・
 その心は沖縄に特攻する戦艦大和の乗組員よろしく悲壮感に溢れていた。
 そこから先は戦争だった。肉を切らせたらまな板を切断しお米をとがしたらお米をすべて水の中に流してしまいおまけに炊飯器そのものも破壊してしまった。
 ピーラーで野菜の皮むきをさせたら野菜クズが散弾銃の散弾よろしく跳ね回り肝心の野菜は消滅してしまう始末。
 台所は洒落や冗談などではなく本当にアメリカ海軍空母機動部隊の艦載機の波状攻撃にさらされた戦艦大和の甲板そっくりの惨状を呈していた。
「う、烏月さん」
「だ、大丈夫です!」
 烏月は鬼気迫る表情で魚と格闘していた。全身は血まみれで髪は真紅に染まり、どっかの鬼妹を思わす凄惨な姿だった。
「なんでこんな風にできるのですか?。」
「私にもわかりません!」
 そんな力強く男前に断言されても・・・と柚明は思った。
 桂も相当な物だったが烏月はそれ以上だった。正直手作りを諦めさせて出来合いの物を渡したほうがいいような気がした。が、烏月の必死さにのまれてしまった。
「あ、そういえばガスコンロの火・・・・」
「私が消します」
 烏月はガスコンロに手をのばした。

「柚明おねーちゃん遅いな〜〜どこ行ったんだろう?」
 ここは羽藤桂と柚明の愛の巣―――ならぬ桂達が住んでいるアパート。陽子達と遊んだ後、遅めに帰ってきたのに誰もいない。電話の留守録には『おねえちゃんも用事ができて、帰るのは遅くなるね』というメッセージが入っていたが、それにしても遅すぎるような気がした。
 部屋にはテレビのニュースの声が響く。殺人事件に強盗事件、誘拐事件に障害沙汰。お定まりのニュースのオンパレードである。中にはとある名門女学校で女生徒が女生徒に襲われるという前代未聞の珍事が起きたということも報道していた(桂は襲われた女学生に妙な親近感を感じた)。
 しだいに桂は心細くなってきた。
「う〜〜〜。おねーちゃんひょっとして何か変な事件に巻き込まれちゃったのかなぁ」
「落ち着きなさいな、見苦しい」
と、言ったのはノゾミである。
「でもでも〜〜〜〜」
「テレビのにゅーすで言うからには犯罪に巻き込まれる者というのは大抵本人の不注意が原因みたいね。だったら心配することはないわ。あの女はああ見えて抜け目無いのだから。」
 腹だって黒いし、とも付け加えた。ノゾミは柚明にあまりいい感情を抱いていない。主に突っかかるのはノゾミのほうなのだが。そして柚明に軽くいなされてしまうのもお約束である。ノゾミは長い年月を過ごした鬼とはいえ精神面ではまだまだ子供である。言い争いで柚明に勝てるはずも無い。
 また、たまに言い過ぎて本気で柚明を怒らせてしまうこともある。そうなると大変だ。以前たまたま桂が出かけ、ノゾミと柚明が二人きりになった時柚明を本気で怒らせてしまったらしく帰ってきたらノゾミが号泣しながら抱きついてきたことがあった。何を言ったか知らないが柚明は相当腹に据えかねたらしく一週間機嫌が戻らなかった。その時の気まずさと言ったらもう・・・。
 しかしどんなに言い争いをしてもノゾミは自分の『力』を絶対に柚明に使わない。桂との約束だからかそれとも『力』を使えば口げんかの負けを認めたような気がして嫌なのか。おそらく両方だろう。
「の、ノゾミちゃん・・・」
「何よ」
 じろりと睨むノゾミ。気まずい雰囲気になる。
 テレビは相変わらず物騒なニュースを流している。どこぞの国での和平会議の最中に巫女が自爆テロをやらかしたというニュースをずいぶん大きく放送していた。自爆した巫女が年端もいかぬ少女だからだろうか。
「――――この巫女、あなたに似ていない?」
「え〜〜。イヤなこと言わないでよう。ノゾミちゃんのいぢわる」
「いえ、本当に。嫌がらせじゃなくて」
 そんなことを言い合っていたら先ほどの気まずい雰囲気が流れた。
 テレビは次のニュースを流していた。
『次のニュースです。ロシアの北の都市チェルビアンスク郊外で大規模な爆発事件が起こった模様です。この地区は冷戦時代大規模な核兵器開発の研究施設があり、爆発はこれと関係したものではないかと国際社会は懸念を深めています。
 これに対しロシア政府のスポークスマンは「真相を言っても絶対信じないだろう。神のご加護を。」とコメントするにとどまっています。』
 ニュースはアメリカの人工衛星が写した爆発現場の様子を放送している。水爆が炸裂した後のような巨大なクレーターが写されている。
「わ、凄いね。何がおきたんだろう?。」
「さあ・・・。それにしてもその『かくへいき』って本当に戦のための道具なの?。話を聞いてもまだ信じられないわ。常軌を逸しすぎているもの」
「う〜〜ん。おばけのノゾミちゃんに『常軌を逸している』なんて言われたくないような気がする」
「でもこんな大穴を空けるなんて主様だってできないわよ。」
「それにまだ核だって決まったわけじゃないよ。凄い爆発って言っているだけで」
『―――専門家の意見によるとこれほどの巨大クレーターを作れるのは核兵器だけだとのことです』
「ほら見なさい。」
 勝ち誇ったように言うノゾミ。こうなると桂も意地だ。
「テレビの言うことだからっていつも正しいってわけじゃないよ。それに」
「それに?」
「なんとなくなんだけど、この爆発って私達に関係しているようなないような・・・」
「桂。貴方何を馬鹿なことを言っているの?。貴方の知り合いにこんな大穴作れる者がいて?」
「う〜〜〜ん。烏月さんとか?」
「貴方って本当に馬鹿。」
「ぐさっ」
 その時電話が鳴った。
「は〜〜い!っともしもし?」
「あ、桂おねーさんですか?」
「葛ちゃん?わ、ひさしぶり〜〜。」
「いえ、まあ・・・・」
「?どうしたの?疲れているみたいだけど。」
「ははははは。まあちょっと・・・」
「?」
「ところで桂おねーさん、三月十四日はおヒマですか?」
「うん、ヒマだけど」
「それなら良かったです。桂おねーさんに皆でバレンタインデーの時のお返しをしようと思いまして」
「え〜〜〜。そんな気を使わなくてもいいのに〜。」
 そう言いつつ桂の頬は緩む。お返しが嬉しいという即物的な感情もあったが、純粋に皆の気持ちの方が嬉しかった。
「桂、頬が緩んでいてよ」
 と、頭の上からの小うるさい鬼っ娘の言葉を無視し細々とした約束をし、電話を切った。
「桂?。何を話して?」
「あのねあのね。皆がねバレンタインデーのお返ししてくれるって。わ〜〜〜うれしいな〜」
「――――そう」
 浮かれる桂とは別にノゾミは沈んだ調子だ。顔はテレビのほうを向いてしまった。なんとなく子供(外見は百%子供だが)がすねてしまったようだ。
「あ・・・・」
 桂は思い出した。ノゾミはお返しができないのだ。ちなみにバレンタインデーの時、桂はノゾミに『一日好きなだけ血を吸っていい券』という物を贈った。
 しかしお返しとなると・・・・
「あの・・・えっとね」
「いいのよ、桂。私がしてあげれる事といえば桂を守ることだけだもの。気にしないで」
「でも―――あ、そうだ。ノゾミちゃん、こっち向いて」
「?いきなり何よ?」
「いいからいいから」
 向かい合う二人。じっと見詰め合う。桂はじ〜〜〜〜っと、それこそ穴が開きそうなほどノゾミを見つめた。
「な、何よ?」
 ノゾミがほんのり頬を染める。桂は言った。彼女には珍しく真剣な様子で。
「ノゾミちゃん。お願いがあるの」
「な、何かしら?」
「笑って」
「は?」
 ノゾミには珍しい間抜けな声を出した。
「ノゾミちゃんって、笑うとすっごくかわいいんだよ。だから、ホワイトデーのお返しにノゾミちゃんが笑った顔が見たいな〜」
「け、桂?」
 へへへ〜っと例の人の良さそうな顔で微笑む桂。まったくどうしてこんなに優しいんだろう、この娘は。何度も何度も恐ろしい目にあわせた敵になのに―――ノゾミはそう思った。
「本当にそんなのでいいの?。まったく、ずいぶん安っぽいことで喜ぶのね、貴方は。」
 あえて憎まれ口を叩く。
「わ、そんなこと無いよ。ノゾミちゃんの笑顔は安っぽくないって」
「だからそんなこと言っているのではなくて・・まあいいわ。桂」
「何?」
「・・・・・大好き」
 ノゾミは桂に抱きついた。その顔には極上の笑顔が宿っていた。

 テレビは相変わらずニュースを流していた。
『臨時ニュースです。北朝鮮、朝鮮民主主義人民共和国で大規模な爆発事件が起きた模様です。詳細がわかり次第おって放送します。』

あとがき

 初SSです。物凄くヘタクソですが、どうかよろしくお願いします。小ネタだけで笑ってくだされば幸いです。

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